性理大全書卷之二十二

律呂新書一 律呂本原

八十四声図第八(*)
(【原注】正律正声は墨書、正律半声は朱書。変律正声は朱書、変律半声は墨書(*)

十一月黄鐘宮





六月林鐘宮黄鐘徴




正月太簇宮林鐘黄鐘商



八月南呂宮太簇徴林鐘商黄鐘羽


三月姑洗宮南呂太簇商林鐘黄鐘角

十月応鐘宮姑洗徴南呂商太簇羽林鐘角黄鐘変宮
五月蕤賓宮応鐘姑洗商南呂太簇角林鐘変宮黄鐘変徴
十二月大呂宮蕤賓応鐘姑洗南呂太簇変宮林鐘変徴
七月夷則宮大呂徴蕤賓商応鐘姑洗角南呂変宮太簇変徴
二月夾鐘宮夷則大呂商蕤賓応鐘姑洗変宮南呂変徴
九月無射宮夾鐘徴夷則商大呂羽蕤賓角応鐘変宮姑洗変徴
四月仲呂宮無射夾鐘商夷則大呂角蕤賓変宮応鐘変徴

黄鐘変仲呂無射夾鐘夷則大呂変宮蕤賓変徴

林鐘変
仲呂商無射夾鐘角夷則変宮大呂変徴

太簇変

仲呂無射夾鐘変宮夷則変徴

南呂変


仲呂角無射変宮夾鐘変徴

姑洗変



仲呂変宮無射変徴

応鐘変




仲呂変徴

按ずるに、律呂の数値はけっして循環しない。それゆえに黄鐘はけっして黄鐘以外の律に従属しない(黄鐘正律が他の律の商・角・徴・羽・変宮・変徴になることはない(*))し、〔黄鐘が宮声となって構成される〕七声音階(黄鐘宮調)の律はすべて正律で、少しも誤差はない(*)
ところが、林鐘以下の律の場合、〔すべてが正声というわけにはいかず、〕半声が必要となる。(【原注】大呂・太簇が宮になるときは半声が一つ〔変宮〕。夾鐘・姑洗が宮になるときは半声が二つ〔変宮・羽〕。蕤賓・林鐘が宮になるときは半声が四つ〔変宮・羽・徴・変徴〕。夷則・南呂が宮になるときは半声が五つ〔変宮・羽・徴・変徴・角〕。無射・応鐘が宮になるときは半声が六つ〔変宮・羽・徴・変徴・角・商〕。仲呂は十二律の終点で、これが宮になるときは半声が三つ〔変宮・羽・徴〕。)

蕤賓以下の律の場合は、〔半声に加えて〕変律が必要となる。(【原注】蕤賓が宮になるときは変律が一つ〔黄鐘変〕。大呂が宮になるときは変律が二つ〔黄鐘変・林鐘変〕。夷則が宮になるときは変律が三つ〔黄鐘変・林鐘変・太簇変〕。夾鐘が宮になるときは変律が四つ〔黄鐘変・林鐘変・太簇変・南呂変〕。無射が宮になるときは変律が五つ〔黄鐘変・林鐘変・太簇変・南呂変・姑洗変〕。仲呂が宮になるときは変律が六つ〔黄鐘変・林鐘変・太簇変・南呂変・姑洗変・応鐘変〕。)

〔黄鐘以外の律が宮となる場合は〕すべてごくわずかな誤差があり、正しい音ではない。ゆえにただ黄鐘だけが「声気の元」となりうるのである。十二の律、八十四の声があるとはいうものの、すべて黄鐘律が生みだしたものである。したがって黄鐘調だけがいわゆる「純粋中の純粋」なるものである。
八十四声のうちわけは、正律を用いるものが六十三、変律を用いるものが二十一である。六十三は九と七の乗数。二十一は三と七の乗数である。

原文

注釈(訳者)

(表の読み方)
十二正律と六変律の、各調(次章に述べる六十調)における機能を一覧する表である。「十一月」から「四月」に至る月名は、黄鐘を三分損益して作られる十二の正律を意味している。月の順に並んでいないのは、それが三分損益の順だからである。「十二律之実」(第四章)に記載される十二律の順序に等しい。「六月(林鐘正律)」の行に「林鐘宮」「黄鐘徴」の二声が記載されているのは、〈林鐘正律〉が、音階中の役割として「林鐘調の宮声」および「黄鐘調の徴声」の二声のみを担当することを示している。蔡元定以前には「変律」の概念はないので、林鐘は「仲呂調の商声」「無射調の羽声」「夾鐘調の角声」「夷則調の変宮声」「大呂調の変徴声」ともなりうる。しかしこれらの調における林鐘の音は、誤差があるため(第五章「変律」を参照)、正しい音階を得るためには〈林鐘変律〉を用いなければならないのである。そのため「六月(林鐘正律)」の項の「商」「羽」「角」「変宮」「変徴」は空欄となっている。代替となる六つの「変律」は、十二正律の末尾(四月)につづいて欄が設けられている。「林鐘変」の項をみると、この変律は「仲呂調の商声」「無射調の羽声」「夾鐘調の角声」「夷則調の変宮声」「大呂調の変徴声」の役割を持つことがわかる。「林鐘正律」の項の空欄に対応している。なお、変律は宮声になることはできない(第五章「変律」を参照)ため、月名は与えられずに空欄になっており、十二の正律の「宮声」の段を借りて律名が書かれている。
正律正声は墨書……
原文は「正律墨書 半聲朱書 変律朱書 半聲墨書」。二色刷りの指定である。今たとえばモノクロームの景印本で「正月」すなわち「太簇律」の項を見ると「林鐘徴」の「徴」の字だけが黒色の背景で陰文になっている。これが原注の「半聲朱書」に相当する表記法である。「林鐘徴」の三字は「(太簇律は)林鐘調の徴声(として機能する)」ことを意味する。ただ、徴声はかならず宮声の五度上(七律高い律)に位置するという大原則があるため(第六章「律生五声図」を参照)、ここで用いる太簇律は、正律正声ではなく、正声のオクターヴ上の太簇、すなわち「太簇正律半声(半律)」を使う必要がある。「」を朱書することで「半声(半律)」を用いることを示しているのである。つまり、太簇正律の欄(正月)の、「徴」の字を朱書した「林鐘」の記述の意味は、「(太簇正律は)林鐘調の徴声として用いる場合にはその半声(半律)を使う」ということである。〈正律半声〉の実際の数値は、第四章「十二律之実」に列記されているので、それを参照する。また「黄鐘変律」から「応鐘変律」の六つの欄は、その音律名自体が陰文で印刷されている。これが原注の「変律朱書」に相当する。「林鐘変」を例にとると、仲呂調の商声には「林鐘変律正声」を用いるので、「仲呂商」の三文字が「朱書」される。しかし無射調の羽声には林鐘変律の〈半声〉を用いるので、「無射羽」の「無射」を「朱書」し、「羽」を「墨書」して、〈無射変律の半声〉であることを示すのである。つまり〈十二正律〉においては「朱書」が「半声(半律)」を意味し、〈六変律〉においては「墨書」が「半声(半律)」を意味するのである。朱墨の二色で律・声の四通りの組み合わせを区別している。
他の律の商・角・徴・羽・変宮・変徴になることはない
十一月(黄鐘)の欄に「黄鐘宮」とあり、以後が空白になっている。これは、黄鐘正律の機能が「黄鐘調の宮声」に限定されていることを示している。林鐘(六月)以下の律は複数の機能を持つことが表から見て取れる。
少しも誤差はない
下章「六十調図」を参照すると、七声のすべてが「正律正声」で構成されるのは「黄鐘宮調」のみであることが知られる。